2019/08/19 15:16
EasycomeやYMB、ゆ~すほすてる、Set Free……、関西から良質なポップ・バンドが次々頭角を示している。それはいわゆるシティ・ポップの潮流とも違えば、現状を覆して西から新たな価値観を提示するほどのムーヴメントでもない。ただ普遍性を持ったメロディと、甘酸っぱくセンチメンタルな叙情を伴って描き出す歌と、それを支えるシンプルで流麗なサウンドの三位一体で勝負する正攻法。それを新時代のメロディ・メーカーとか、ポップ・マエストロと表現するのは食傷気味だが、ニューミュージック~J-POPの歴史を青春時代の中で無意識的に受け継いだ世代の琴線から生まれる屈託のない彼らのポップ・ソングは瑞々しくって煌びやかだ。
神戸・大阪を中心に活動するベルマインツもそんな彼らと肩を並べる若き3人組である。バンドというよりは盆丸一生(Vo / Gt)と小柳大介(Vo / Gt)、2人のシンガーソングライターを中心としたユニット、との捉え方がしっくりくるだろう(2019年に前田祥吾(Ba)が加入)。本作はミートボールズから昨年ベルマインツに改名して初音源となる両A面2曲シングル。盆丸一生サイドといえる“流星タクシー”は飛び切りにキャッチーなフリー・ソウル・チューン。あふれ出す甘酸っぱさとグルーヴには堂島孝平が曲名で先駆のポップ・バンドにオマージュを捧げた名曲“センチメンタル・シティ・ロマンス”を思い起こさせるが、本曲でも歌詞に“木綿のハンカチーフ”を登場させており、松本隆から連なる日本のポップへのオマージュが捧げられている。また盆丸の晴れやかに突き抜けていく歌声には大器を感じさせるではないか。一方で小柳大介サイドとなる“ケセラセラ”は7分半近くに及ぶ大曲スロー・バラード。“流星タクシー”とは一転、自分を何とか奮い立たせる内省的な詞が綴られる。訥々と吐き出される小柳の素朴で真摯な歌声と通底するロングトーンのシンセが胸を打つ、彼らにとっての“茜色の夕日”(フジファブリック)と言ってしまいたくなるような自身の起点となる物語が感じられる楽曲だ。
対極を成すような2曲ではあるが、それぞれ特徴ある2人のボーカリストの声が折り重なった時にグッとブーストされる歌の強度は共通しており、そこがベルマインツ足らしめている。この2曲はまだまだ彼らのポテンシャルの一端でしかないのだろう。昨年からバンド編成で本格的に活動し始めたというだけに、今後の可能性に思わず期待してしまう。
【このレビューを書いた人】
1991年生まれ音楽ライター兼会社員。京都発ウェブマガジン アンテナ副編集長。CDジャーナル、Mikiki、OTOTOYなどでも執筆。
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