【収録曲】
1. 100mLのアグラ
2. EIKOの架け橋
3. 壁ドン、肩ズン、顎クイ
4. GO
5. 出家'na Baby
6. Tell you the Truth
7. 浅田物語
8. マチのホットステーツョン
9. 君の名は
10. secret track1
11. secret track2
【MV】
壁ドン、肩ズン、顎クイ→https://youtu.be/wuLI5SGssTU?si=TCjrZemBzuiyFYqe
奈良を拠点に活動する北京パンクアーティスト、デスゲイズマツイシの2ndアルバム!!
1曲目「100mLのアグラ」
松居一代の悲痛な叫びの断片の中から、船越英一郎に対する怒りそのものも一緒に切り取り出し、北京パンクアレンジで炸裂させた一曲。本家よりもオカアチャンに何を伝えたかったのかが伝わりやすくなっているように感じる。
2曲目「EIKOの架け橋」
狩野英孝が芸人として成功し、ミュージシャンとして成功し、未成年と性行したという一曲。"成功"という言葉を多用することにより、狩野英孝の"失敗"をより強く認識させるという、啓発としての意義が強い北京パンク。アウトロの"ラーメンつけ麺ぼくイケメン でもお前が出したのただのザーメン"という一節は、ザーメンなどではなくもっと自分自身をさらけ出せよ、という熱い思いがこもっているように感じる。
3曲目「壁ドン、肩ズン、顎クイ」
モテない少年の熱い衝動を描いた、青春パンクを思わせる北京パンク曲。妄想だけでは飽き足らず、好きな女の子の写真に壁ドンを試してみたら、溢れ出るリビドーにより壁を破壊してしまう。壁ドンを諦めて写真の女の子に肩ズンをしようとしたら、今度はずんどう屋のラーメンを思い出してしまうという無邪気な一面も描きつつ、最後には少年が突如妊娠をして子供を産んでしまうという物語。「元気な双子の赤ちゃんです」という、リスナーに続きを想像させる最後の一説。壁ドンで壊した壁は、人間として壊してはいけない壁を壊してしまったという暗喩。そして"双子"は錯乱した少年が二重人格になったことを想起させる。この曲は生まれた瞬間と壊れた瞬間を同時に描き、生命の意義を問うかのような、壮大で秀逸な物語。
4曲目「GO」
ポケモンGOと551の豚まんをかけ、ポケモンGOがスマホに対応している少年と対応していない少年の格差を音楽で表現し、現代の日本の格差社会を風刺した楽曲。曲の途中で「剛力彩芽がいない時」という一説の後、ポケモンGOの少年の時と同様に泣き声が入る。これはおそらく、日本でも有数のお金持ちである前澤社長も、奥さんがいないと泣いてしまう、つまりお金だけでは幸せが買えないということを伝えている。そしてこの曲のラストは「号泣会計やる時」「号泣会計やらない時」という謎の2択をリスナーに迫り、どちらでも同じ泣き声をあげて曲を締め括る。少年も泣く、前澤社長も泣く、あなたも泣く、つまり人間に格差はないのだ。そんな強い思いをぶつける社会派の北京パンク。
5曲目「出家'na Baby」
レッドアイズブラックドラゴン、ブルーアイズホワイトドラゴン、サウザンドアイズビューティフルガールという3対の生物を叫んだ後、「出家'na Baby」と叫ぶ、という北京パンク。これは僕が遊戯王を見ていないせいでなんのことかさっぱり分からなかった。説明しすぎず、リスナーの知識をストレートに試す。ここに北京パンクの奥ゆかしさを感じた。
6曲目「Tell you the Truth」
トランプ大統領の陽気な挨拶から曲は始まるが、そのすぐ後にトランプ大統領がツイッターに張り付いている描写がある。そして、まるで自作自演かのように自分のツイートを「いいね!」「リツイート!」と叫びまくる。最後には「オバマが羨ましい」「俺のツイッターをフォローしてくれ!」と叫ぶ、という北京パンク。この楽曲は一見、トランプ大統領にも普通の人間と同じような承認欲求がある、ということを描いたように見えるが、実際のところはその真逆。トランプ大統領にはSNSを悠々と見るほどの余裕がある、つまりこのトランプ大統領の発言は、大統領としての格の違いを見せつけるかのような皮肉である。Tell you the Truth、真実を話す。真実とは、世界とは、ディープステートとは。リスナーに気づきを与えるような一曲。
7曲目「浅田物語」
まるで純文学かのようなタイトルのこの楽曲。期待通り、この曲は「真央は激怒した」という一説から始まる。しかしすぐに景色はポケモンのゲームの中へ移行してしまう。浅田真央はシオンタウンでふしぎなあめ増殖バグを使用し、自分のレベルを違法に上げ、とってつけたような最終奥義を会得する。純文学とゲームとの対比、浅田真央のひたむきなイメージと真逆の行動、このコントラストこそがこの楽曲に巧妙に仕掛けられた北京パンク的ギミック。会得した最終奥義の内容は、分身してトリプルアクセルをする、というもの。そしてその奥義で試合に優勝し、浅田真央は浅田魔王になってこの楽曲は終わりを迎える。しかし不思議なのが、魔王になったはずなのにも関わらず、曲の1番最後は「ぼうけんのしょがきえました」の効果音で締め括られている。私の考察では、この終わり方には二通りの可能性がある。まず一つは初めに食べた飴が薬物のパターン。分身は幻覚であり、魔王になると言う一説が単純に"死"を示唆していると考えられる。そしてもう一つのパターンは、ゲームの世界に閉じ込められてしまった、というパターン。このパターンで考えると、閉じ込められたゲームの世界ごと消滅している、というかなりバッドエンドになってしまうのだが、「飴でレベルアップして楽して勝ちたい」というぬるい考えを強く否定するために、それぐらいのラストを用意したとも考えられる。"ズル"と"北京パンク"が対極にあるということ、北京パンクの在り方に強いプライドを持っているからこそ生まれた楽曲なのでは、と私は考える。
8曲目「マチのホットステーツョン」
からあげクン揚げたてです、ご一緒にいかがでしょうか。たったその一文で終わる、12秒のファストコア北京パンク。曲のタイトルの最後が「ション」ではなく「ツョン」になっているところに着目してほしい。これは、「字が汚いからションがツョンに見える」と言われてしまった、悲しい体験談から来ていると考えられる。そしてこの曲のモデル「ローソン」は「ローンン」と書き間違えることも可能。ローン、つまりこの曲はデスゲイズマツイシが借金に苦しんでいる嘆きそのもの。たった12秒だけ漏れ出た"あげたて"の弱音「一緒に(返済)いかがでしょうか」。北京パンクの美学からくる消極的さ、北京パンクの理念から来る赤裸々さ。その二つが12秒という一瞬だけ交差した、ある種どの曲よりも北京パンクが濃縮された一曲。
9曲目「君の名は。」
君の名はあるある言いたい、と数回言った後にジュゲムジュゲムを読み上げる。この時点ではまだなんのことかさっぱり分からない。そしてその後にまた「君の名はあるある言いたい」と数回言った後、「吾輩の名はデスゲイズマツイシ!」と突然叫ぶ。この時点でも全く何のことか分からない。そんな中、ふと「やっと目を覚ましたかい?」という囁き声が入る。ここで私は気づいた。デスゲイズマツイシは眠っていたのだと。夢の中で自分が誰か分からなくなり、徐々に覚醒し、自身がデスゲイズマツイシであることに気づいて起き上がった。ようやくここから『君の名は。』に繋がるのかと思いきや、その直後「この曲は、映画『君の名は』とは……全然関係 ないの♪」と言ってこの曲は終わる。もちろん関係ないはずがないのである。一度振り返ってみてほしい、この曲の中には二人の登場人物がいた。寝ていたデスゲイズマツイシ、そしてデスゲイズマツイシを起こしてあげた誰か。最大の疑問は、最後の「全然関係ないの」と宣言したのが一体どっちの人間なのか、というところだ。普通に考えればデスゲイズマツイシ本人のはずなのだが、これは実は違う。なぜなら"入れ替わっている"のだ。偽デスゲイズマツイシは、この曲以降入れ替わってしまったことを隠すために「全然 関係ないの♪」と宣言したのである。
そしてこのアルバムには、偽デスゲイズマツイシに入れ替わってから収録されたであろうシークレットトラックが2つ入っている。これは偽デスゲイズマツイシが残したメッセージであり、また本物デスゲイズマツイシがなんとか隠したトラックでもある、と私は考える。アルバムタイトル「この人を見よ」は、果たしてどちらのデスゲイズマツイシの言葉なのだろうか。
最後の"デスマッチ"まで、ぜひ耳を凝らして聴いてみてほしい。